生存報告、あるいはスカボロフェアの話。

はい。というわけで。

残念!生きてました〜〜遺言みたいなこと書いちゃってアー恥ずかしい。ぴんぴんはしてませんがなんとか薬を飲んだり点滴したりして生きています。わーい。

死んだら、魂以外は全て地上において行くことになる、と私の友人はそう語ったことがあります。彼女は自分を虐げていた母を当たり前のようにそう言って許したのです。その時、そして「ほっといたら死にますよ」と言われた私が考えたことは、

「もしわたしが今ここで死んで、魂以外全てをおいて行くのであれば、私の寂しさや、後悔、やりきれなさや、謝りたかったこと、悲しみも地上に残ってしまって、もしかすると誰かが私が残していった感情たちに躓いて、転んだりしてしまうのだろうか。誰かが拾ってしまったりするんだろうか。そうなったら悲しすぎる」

「でもだからといって、この悲しみや、寂しさや、後悔や、やり切れなさ、謝りたかったことが魂に刻み込まれていて、それも一緒に持っていってしまうのも、あまりにも切なすぎる」

 

* * * * *

 

本日の本題に入ります。サイモンとガーファンクルが歌ったことでとても有名になった、「スカボロ・フェア」というお歌をご存知でしょうか。わたしは小さい頃からなぜか妙に民族音楽に惹かれ、ご幼少の御砌からこの曲が大好きでした。

今日はこの曲の話をしたいと思います。まあ曲の解釈など人によるものなのであんまりあてにせず聞いて欲しいのですが、つまり私はこんな風に感じた、というお話です。

 

詠唱部分を除いた日本語訳は大体こんな感じかな、と。(日本語訳は私作。)

 

Are you going to Scarborough Fair

 Parsley, sage, rosemary and thyme

Remember me to one who lives there

She once was a true love of mine

スカボロフェアに行くのなら、伝えて欲しいことがある。

(パセリ、セージ、ローズマリー、タイム……

そこに住むある人に、私のことを思い出させて欲しい

彼女はかつて私の本当の恋人だったんだ

 

Tell her to make me a cambric shirt 

 Parsley sage rosemary and thyme

Without no seams nor needle work

Then she'll be a true love of mine 

シャンブレイのシャツを作るよう、彼女に伝えて欲しい 

(パセリ、セージ、ローズマリー、タイム……

針の跡も、縫い目の一つもないものを 

そうしたら彼女は私の真実の恋人になれるだろうから

 

Tell her to find me an acre of land 

 Parsley, sage, rosemary and thyme 

Between the salt water and the sea strand 

She'll be a true love of mine

1エーカーの土地を見つけてくれるよう、彼女に伝えて欲しい

(パセリ、セージ、ローズマリー、タイム……

海岸と塩辛い海の水のその隙間に

そうしたら彼女は私の真実の恋人になれるだろうから

 

Tell her to reap it with a sickle of leather 

 Parsley sage rosemary and thyme 

And gather it all in a bunch of heather 

Then she'll be a true love of mine

革製の鎌で刈り取るよう、彼女に伝えて欲しい

(パセリ、セージ、ローズマリ、タイム……

刈り取った草を全て蛇の目エリカの花と一緒に束ねておくれ

そうしたら彼女は私の真実の恋人になれるだろうから

 

Are you going to Scarborough Fair

 Parsley, sage, rosemary and thyme

Remember me to one who lives there

She once was a true love of mine

スカボロフェアに行くのなら、伝えて欲しいことがある。

(パセリ、セージ、ローズマリー、タイム……

そこに住むある人に、私のことを思い出させて欲しい

彼女は私の本当の恋人だったんだ

 

まあ、多少間違ってたらすみません。でも概要はあってるはず。

この曲、普通に考えるとほぼ意味がわからないですよね。

 

・「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」という謎の挿入

・意味不明な"お願い事"の数々。

・そもそも"彼女"ってだれよ?

 

頑張って解釈して見たので、お付き合いください。

もともとスカボロ・フェアは、1670年ごろから受け継がれてきたイギリスの伝統的な民謡のようなものらしいです。現在の歌詞の形で固定されたのはまだ最近のことになりますが、長い間愛されてきた歌詞であることは間違い無いのだとか。

それを、サイモンとガーファンクルがカバーし、反戦の意味を込めた「詠唱」の部分を加えたものが今日最もよく知られている「スカボロ・フェア」です。詠唱部に関しては、反戦のメッセージとしてのちに加えられたものなので、今回は元々の部分に特に注目して解釈していきたいと思います。

 

スカボロフェアの起源、あるいはペストの物語

現代はほとんど滅び、人類を脅かすことのなくなった"ペスト"という病気がありました。ヨーロッパはもちろん、全世界で猛威を振るい、別名は黒死病。高い熱が出て身体中のリンパ節が腫れ上がり、時には肌を真っ黒に染めながら死んで行く人が多数出現して、人々は恐怖に苦しみました。人類とペストの戦いは長きにわたり、14世紀の大流行の時は、実に一億人もの人を殺した死の病でした。

特に1650年ごろ、ペストはイギリスで猛威を振るいました。スカボロフェアが生まれたのは1670年台。時代背景的には、病と急速な社会の発展によってイギリスの社会が混乱していたその時です。

ペストの治療にあたる医者は、有名な「ペストマスク」を着用して様々な場所を訪れました。ペストマスクの長い嘴の中には、臭いを避けたり毒素を吸い込まないように、様々な薬草が詰め込まれていたと言います。

例えばパセリ。

例えばセージ。

例えばローズマリー

例えばタイム。

 

スカボロフェアの登場人物は誰か

もともとパセリ・セージ・ローズマリー・タイムといった薬草はどうやら魔除けの薬草として知られていました。悪魔にとりつかれないよう、病気を寄せ付けないよう、人々は香り袋にいれて持ち歩いていたということもあるようです。

さて、スカボロフェアの歌の中で度々繰り返される「Parsley, sage, rosemary, and thyme」というセリフ。誰かが何かにお願い事をしている歌詞の中に唐突と現れるこれらの呪文のような言葉。

ここからは私の予測になりますが、おそらく無理なお願い事をする「私」とは、全く別の人間がこの呪文をつぶやいているのです。ただ意味がないセリフなのかと思ってしまえば、その通りなのですが、そうではないとしたら、この歌詞に誠実に意味を持たせるとしたら。そんなことが考えられるのではないでしょうか。

 

ではつぶやいているのは誰でしょう。

ペストマスクをつけた医者でしょうか。それともはるか先の地を目指す旅人でしょうか。それはわかりません。少なくとも、無茶なお願いをする人格とはかけ離れた何者か、なのです。魔を避けようとしているのか、病気を避けようとしているのか、あるいは両方なのか。

では、話しかけているのは誰なのでしょう。

 

悲しみを届けるのはなぜか。いったい誰が悲しみを引き継ぐのか。

先に訳を乗せたその通り、スカボロフェアの歌詞に出てくるお願い事は無理難題ばかりです。

「針の跡も縫い跡もないシャツを作って欲しい」

「海岸と海の間にある1エーカーの土地を探して」

「革の鎌で刈り取りをしてほしい」

シャツを作るために針を通さず縫い目も残さないのはまず不可能です。そして、海と海岸の間に1エーカー、およそ4000平方メートル(大体東京ドーム1/3くらいの大きさ)の土地など見つかるはずもなく、革の鎌で刈り取りをするのも不可能なのです。

これを恋人への冗談だ、とする解釈もあるようですが、私はまあ悲恋が好きなのでそんな幸せな予想は立てません。

そもそも、こんな不可能なお願い事を、なぜ通りすがりの旅人だか、医師だかに頼むのか。自分でスカボロフェアまで行けばいいじゃないか。

 

いけないのです。きっと、なんらかの事情があって、足をなくして、病気になって、あるいはすでに死んでしまっている彼は、彼女の元に行くこともできず、だからといって彼女に自分が彼女の元に行けない理由をなにも語りたくはないのです。

だから無理難題を伝える。それができたらぼくたちの愛は本物だよ、と伝える。

できないからこそ、できないのを分かっていて、彼は無理難題を伝え、暗に彼女に自分のことを諦めさせようとしているのかもしれない、と私は思うのです。

 

スカボロフェアの物語

あるところに美しい娘と、一人の青年が暮らしていました。彼らが住むスカボロフェアは大変美しい場所で、素晴らしい自然と平和な暮らしが約束された理想の地でした。

ある時青年は、仕事でロンドンに行かなくてはいけなくなりました。「帰ってきたら結婚しよう」二人はそう約束して、離れ離れになりました。

青年が訪れたロンドンはひどい有様でした。病気に苦しむ人々、戦火の中を生き延びた人々、そこはまるで地獄でした。

青年は悟りました、自分はもうきっとスカボロフェアに戻ることはなく、結婚の約束を果たせることも二度とはないのだと。薄れゆく意識の中で、彼は思いました。残された彼女はどう思うだろうか。せめて、彼女の未練のないように……。

 

幾時代かが立ち、スカボロフェアを目指す旅人たちの間でおかしな噂が流れるようになりました。山を越える時に、悪魔の声が聞こえるというのです。

「スカボロフェアに行くのかい?」

「もしそうなら伝えて欲しいことがあって……」

決して耳を貸してはいけない、と先に向かったものたちは口を揃えて言いました。そして若い者たちには魔除けの呪いを教えたのです。パセリ、セージ、ローズマリ、タイム。そう呟き続けていれば悪魔にとりつかれることはないから、と。

 

* * * * *

 

上記のものは全て憶測なので正しい解釈とは限りません。恋人同士の冗談を歌った歌だという人、反戦歌であるというひと、ただの言葉遊びで意味はないという人(確かにLeatherとHeatherで韻を踏んでいますしね)、様々な人がいます。イギリスの歴史などをたどっていけばこんな安易な答え以外にもたくさんのものが出てくるかもしれません。

ちょっと好きなのでまとめてみました。以上です!解散。